アルツハイマー病治療

アルツハイマー病治療

The preventive and therapeutic effects of intravenous human adipose-derived stem cells in Alzheimer's disease mice.

Kim, Saeromi, et al.,PloS one 7.9 (2012): e45757.

細胞由来:脂肪由来間葉系幹細胞 投与対象:マウス
投与方法:静脈内投与 投与細胞数:1.0x106 cells、13回の反復投与

【要約】

アルツハイマー病(alzheimer's disease、AD)には、認知機能障害が同伴されたアミロイドフラッグ(amyloid plaques)の蓄積と神経繊維束(neurofibrillary tangle)の特徴がある。本研究の目的は、アルツハイマー病に対する幹細胞による予防および治療可能性の検討である。ヒト脂肪由来間葉系幹細胞は、自身に投与する場合、拒絶反応はなく、腫瘍形成を認めなかった。本研究では、投与した脂肪由来間葉系幹細胞が脳血管壁(blood brain barrier:BBB)を通過して、脳へも到達したことを確認した。アルツハイマー動物モデル(Tg2576)を用いてヒト脂肪由来間葉系幹細胞を静脈内投与した後、少なくとも4か月間は、学習および記憶能力と病態に大きく改善を認めた。また、アミロイドフラッグ(amyloid plaques)の数とAβの数値が、対照群に比べてヒト脂肪由来間葉系幹細胞の投与群で明らかな減少を認めた。本論文では静脈または脳内投与されたヒト脂肪由来間葉系幹細胞が、アルツハイマー動物モデルの脳内でIL-10とVEGFの上昇により、記憶力の消失と神経病理学的の面で顕著に改善されていることから、アルツハイマー病の予防および治療に有用であることが示唆された。



Adipose-derived mesenchymal stem cell transplantation promotes adult neurogenesis in the brains of Alzheimer’s disease mice.

Yan, Yufang, et al., Neural regeneration research 9.8 (2014): 798.

細胞由来:ヒト脂肪由来間葉系幹細胞 投与対象:マウス
投与方法:静脈投与

【要約】

合計10匹のAPP/PS1 transgenic Alzheimer’s model miceを用いて、二つのgroup(HBSS group、ADSCs group)に分けて8週間実験を行った。移植の方法はAutomated infusion pumpを用いてアルツハイマー病モデルマウスの両方の海馬にヒト脂肪由来間葉系幹細胞を移植した。その後脳室下帯(subventricular zone)と顆粒細胞下帯(subgranular zone)の神経細胞の増殖を確認するためにDCXとBrdU陽性のDouble-positiveを確認した。最初にヒト脂肪由来間葉系幹細胞の移植による認知機能の改善を確認する実験を行った。その結果、HBSS group(コントロール)と比べてヒト脂肪由来間葉系幹細胞を移植したgroupマウスの認知機能が15%程の回復の結果を得た。その理由として活性酸素による海馬の被害が減り歯状回(dentate gyrus)での細胞増殖が、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞を移植したgroupマウスの細胞がコントロールと比べて2倍増殖することを確認した。さらに脳室下帯(subventricular zone)と顆粒細胞下帯(subgranular zone)の神経細胞をヒト脂肪由来間葉系幹細胞が移植されたgroupマウスの方が有意的に増殖することが分かった。本研究ではアルツハイマー病モデルマウスを用いたヒト脂肪由来間葉系幹細胞の移植による病態の改善や神経細胞の増殖を確認した。その結果、脳室下帯(subventricular zone)と顆粒細胞下帯(subgranular zone)への神経細胞の増殖がその原因になると考えられた。しかし、最近の研究によると骨髄由来間葉系幹細胞は神経細胞への分化は増加したが、動物実験で細胞増殖の現象が見られず、3日後に移植した細胞が1/4しか残っていなかったとの報告があった。さらにBone marrow mesenchymal stem cellの場合、神経幹細胞の増殖を阻止する結果が発表されている。しかし彼らは骨髄由来間葉系幹細胞が分泌するneurotrophinsが神経細胞の増殖をさせると考察している。そのため間葉系幹細胞を用いたアルツハイマー病の改善に関しては以後追加実験を行う必要があると考えられた。



Intracerebral Transplantation of Adipose-Derived Mesenchymal Stem Cells Alternatively Activates Microglia and Ameliorates Neuropathological Deficits in Alzheimer’s Disease Mice.

Ma, Tuo, et al., Cell transplantation 22.1_suppl (2013): 113-126.

細胞由来:ヒト脂肪由来間葉系幹細胞 投与対象:マウス
投与方法:静脈内投与 投与細胞数:1.0x106 cells、13回の反復投与

【要約】

8週齢のAPP/PS1マウスに、Automated Infusion Pump(PHD)を用いて、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞を脳内に投与した。投与後25日目から、APP/PS1マウスの記憶力等について行動実験を行った。検討を行った後、APP/PS1マウスの脳を用いて組織学解析も行ない、病態改善について評価した。行動実験を行った結果、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞を投与したAPP/PS1マウス群に有意な記憶力の改善が認められた。 さらに、APP/PS1マウスの海馬や、脳の皮質の組織学評価では、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞を投与したAPP/PS1マウス脳から、amyloid-βpeptide (Aβ)の減少が確認できた。また、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞の移植でIL-4が増加し被害があることからIba-1の陽性が増える現象も確認できた。本研究はmicroglial活性によるAPP/PS1マウス病態改善に関して、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞投与の有効性が示唆された。 行動実験の結果より、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞を投与したAPP/PS1マウスの記憶力の改善が確認された。さらに、マウス脳内のamyloid-βpeptide (Aβ)やIL-4定量、障害を確認するための6E10陽性、microglial活性を確認するためのIba-1陽性の確認を組織学的に、発現の有無を確認したところ、APP/PS1マウスの海馬や、脳の皮質で認められる6E10陽性が、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞投与によって活性化されたmicroglialが細胞を修復する現象を認めた。また、これらのmicroglialはヒト脂肪由来間葉系幹細胞移植によって増加されたIL-4による結果であることが確認できた。しかし、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞がどのようにmicroglial活性を高めることのメカニズムや、投与されたヒト脂肪由来間葉系幹細胞の運命に関してはまだ解明されていない。間葉系幹細胞から神経細胞発生、増殖させる因子を分泌することは既に知られているが、どのようなメカニズムで神経細胞発生、増殖させる因子を分泌しているのかはまだ明らかではないため、より詳細な解析が求められる。