重症下肢虚血疾患

重症下肢虚血疾患

Safety and effect of adipose tissue-derived stem cell implantation patients with clinical limb ischemia.

Han Cheol Lee, Sung Gyu An, Hye Won Lee, Jin-Sup Park, Kwang Soo Cha, et al.
Circulation journal, 76, 1750-1760, 2012.

被験者 バージャー病患者12名及び糖尿病性潰瘍患者3名
投与部位 症状の見られる四肢の筋肉

研究の概要:

① in vitro解析
3名の健常者、12名のバージャー病患者、3名の糖尿病性潰瘍患者から脂肪を採取し、in vitroで以下の解析を行った。
1) CFUアッセイ(SVF)
採取した脂肪からSVF(stromal vascular fraction)を分離し、1×105個の細胞を100mmのプレートに播種した。播種してから10日後に、コロニー数を計測した。
2) CFUアッセイ(脂肪由来幹細胞)
採取した脂肪からSVFを分離し、3継代まで培養して脂肪由来幹細胞を調製した。60個の脂肪由来幹細胞を100mmのプレートに播種し、7日後にコロニー数及びコロニー内の細胞数を計測した。
3) RT-PCR
採取した脂肪から調製した脂肪由来幹細胞からRNAを抽出し、VEGF、HGF、GCP2のmRNA発現量を解析した。

② 臨床試験
12名のバージャー病患者、3名の糖尿病性潰瘍の患者から採取した脂肪を用いて、自己脂肪由来幹細胞を調製し、症状の見られる四肢の筋肉に注射により投与した。投与後1、3、6カ月に安全性及び有効性の評価を行った。

評価方法(臨床試験):

②-1 一次評価項目
1) 重大な有害事象の有無
2) デジタルサブトラクション血管造影(DSA)による側副血管形成の解析

②-2 二次評価項目
1) 最大歩行距離
2) 跛行出現距離
3) サーモグラフィーによる温度変化の解析
4) 足関節・上腕血圧比(ABI)
5) Wong-Baker FACES pain rating score

研究の結果:

① in vitro解析
1) CFUアッセイ(SVF)
バージャー病及び糖尿病患者由来のSVFでは、健常者由来のSVFと比較して有意にコロニー形成数が少なかった。
2) CFUアッセイ(脂肪由来幹細胞)
バージャー病患者由来の脂肪由来幹細胞では、健常者由来の脂肪由来幹細胞とコロニー形成数及びコロニー内の細胞数に差異は見られなかった。一方で、糖尿病患者由来の脂肪由来幹細胞では、健常者由来の脂肪由来幹細胞と比較して、コロニー形成数、コロニー内の細胞数ともに有意に少なかった。
3) RT-PCR
VEGF, GCP2, HGFのいずれの遺伝子でも、健常者由来、バージャー病患者由来、糖尿病患者由来の脂肪由来幹細胞でのmRNA発現量に差異は見られなかった。

② 臨床試験
②-1 一次評価項目
1) 有害事象の有無
軽い発熱、インフルエンザのような症状、頭痛が各一件、投与部位の痛みが2件報告されたが、NCI CTCAE(version 4)により評価した結果、グレード2以上の重大な有害事象は認められなかった。
2) デジタルサブトラクション血管造影(DSA)による側副血管形成の解析
側副血管の形成を+1、+2、+3の三段階で評価した結果、バージャー病患者10人中8人(80%)、糖尿病性潰瘍患者3人中2人(66.7%)で投与6か月後に1グレード以上の改善が見られた。

②-2 二次評価項目
脚やかかとの一部を切断した被験者については歩行試験を行わなかったため、歩行試験は5名の被験者のみ行った。Wong-Baker FACES pain rating score、跛行出現距離、温度変化については、投与6カ月後に有意な改善が見られた。最大歩行距離については、改善が見られたものの、統計的な有意差はなかった。ABIについては改善が見られなかった。投与6か月後に診断を行った結果、糖尿病性潰瘍患者の全員(100%)、バージャー病患者12人中7人(58.3%)で症状の改善が見られた。

考察:

in vitroでの解析の結果、バージャー病及び糖尿病患者由来のSVFでは健常者由来のものと比べコロニー形成数が少ないことから、脂肪組織内の幹細胞数が減少していることが示された。また、糖尿病患者由来の脂肪由来幹細胞は増殖能も低下していた。しかしながら、VEGF、GCP2、HGFといった血管形成に関与する因子のmRNA発現量は減少していないことから、バージャー病及び糖尿病患者に対して、血管形成を目的として自己脂肪由来幹細胞を投与することは可能であることが示された。臨床試験の結果、投与6カ月の間に重大な有害事象は認められず、本治療法は十分な安全性を有していると考えられる。また、側副血管の形成、Wong-Baker FACES pain rating score、跛行出現距離、温度変化について有意な改善が見られ、本治療法は血管形成に働くことにより、歩行能力の改善、痛みの軽減など、バージャー病や糖尿病性潰瘍の症状の改善に有効であることが示された。

(提供しようとする再生医療等との関連性)
提供しようとする再生医療等は、本論文報告と同等の方法により提供するため、本論文報告により提供しようとする再生医療等の安全性及び有効性が示されたと考えている。



Implantation of adipose-derived regenerative cells enhances ischemia-induced angiogenesis.

Kazuhisa Kondo, Satoshi Shintani, Rei Shibata, Hisashi Murakami, Ryuichiro Murakami, Masayasu Imaizumi, Yasuo Kitagawa, Toyoaki Murohara
Arterioscler Tromb Vasc Biol., 2009;29:61-66, 2008.

使用細胞 マウス脂肪由来幹細胞
使用動物 マウス

研究の概要:

マウスから採取した脂肪から脂肪由来幹細胞を調製し、以下の実験を行った。
① 遺伝子発現解析
血管形成に関与する因子であるVEGF、SDF-1の発現について、RT-PCRとELISAにより解析し、成熟脂肪細胞における発現と比較した。
② 後肢虚血モデルマウスへの投与実験
後肢虚血を誘導したマウスを以下のグループに分け、投与3、7、14、21日後にlaser Doppler blood perfusion image(LDPI)により血流について解析を行った。
1) コントロール(PBSのみ投与)
2) コントロール(成熟脂肪細胞を投与)
3) 投与群(マウス脂肪由来幹細胞を投与)
また、GFP導入マウスから採取した脂肪由来幹細胞を用いて、生体内における投与した脂肪由来幹細胞の局在を、抗SDF-1中和抗体を用いて、脂肪由来幹細胞による血管形成におけるSDF-1の働きを調べた。
③ EPC kinetics assay
末梢血単核細胞及び骨髄単核細胞を以下の2グループの後肢虚血モデルマウスから投与3日後、7日後に採取し、培養を行った。
1) コントロール(PBSのみ投与)
2) 投与群(マウス脂肪由来幹細胞を投与)
4日間培養を行った後、血管内皮前駆体細胞をDil-Ac-LDLの取り込み及びFITC-BS-1 lectineとの結合により標識し、細胞数を計測した。また、抗Sca-1抗体と抗flk-1抗体を用いてFACSにより解析を行った。また、抗SDF-1抗体を用いて、血管内皮前駆体細胞の増加におけるSDF-1の働きを調べた。

結果の概要:

① 遺伝子発現解析
mRNA、タンパク質ともに、マウス脂肪由来幹細胞では成熟脂肪細胞と比較して有意なSDF-1の高発現が見られたが、VEGFの発現に差異は見られなかった。
② 後肢虚血モデルマウスへの投与実験
投与群ではコントロールと比べて有意な血流の改善が見られた。
また、GFP標識マウス脂肪由来幹細胞を投与した結果、少なくとも60日間は生存し、血管周辺への局在が観察できた。
マウス脂肪由来幹細胞を投与した後、週3回抗SDF-1抗体を投与したマウスでは、LDPIによる解析の結果、有意な血流改善の阻害が見られた。
③ EPC kinetics assay
投与群では、コントロールと比較して、末梢血単核細胞では投与3日後、7日後で、骨髄由来幹細胞では投与3日後で有意な血管内皮前駆体細胞の増加が見られた。
また、マウス脂肪由来幹細胞を投与した後、週3回抗SDF-1抗体を投与したマウスでは、抗SDF-1抗体を投与していないマウスと比較して有意に血管内皮前駆体細胞が少なかった。

考察:

後肢虚血モデルマウスにマウス脂肪由来幹細胞を投与することにより、血流の改善が見られたことから、脂肪由来幹細胞の投与が血管形成に働き、虚血の改善に有効であることが示された。抗SDF-1抗体を用いた解析の結果、抗SDF-1抗体を投与することにより、マウス脂肪由来幹細胞による血流の改善が阻害されることから、マウス脂肪由来幹細胞による血流改善にはSDF-1が関与していることが分かった。また、血管内皮前駆体細胞の動態解析の結果、マウス脂肪由来幹細胞はSDF-1を分泌し、SDF-1が血管内皮前駆体細胞の増殖を促進することにより、血管形成に働くことが示唆された。

(提供しようとする再生医療等との関連性)
提供しようとする再生医療等では、自己脂肪由来幹細胞を投与することにより血管形成を促進し、虚血疾患の症状を改善することを目的としているが、本論文報告により、投与された脂肪由来幹細胞がSDF-1などの因子を分泌し、血管内皮前駆体細胞の増殖を促進することにより血管形成に働くという作用機序が示された。